事務・バックオフィスを整理する / 2026年8月12日
欠品も余剰在庫も減らす|AI需要予測で発注点を決める3ステップ
欠品と過剰在庫が交互に来るのは、担当者の腕のせいではなく「発注の判断材料が揃っていない」構造のせいです。販売実績・在庫・リードタイム・季節要因を1枚のシートに集め、ChatGPTに需要と推奨発注量を出させ、発注点を決めて半自動で回す——勘の発注をデータに置き換える3ステップを、今週試せる形で整理します。
「今月は多めに」で回している発注が、欠品と余りを生む
先週は棚が空いて機会損失、慌てて多めに発注したら今度は倉庫が在庫であふれる——発注の数量が担当者の経験と勘だけで決まっていると、欠品と過剰在庫が交互にやってきます。製造・小売・飲食・卸売など、モノを仕入れて回すすべての業種で起きやすい問題です。過剰在庫は仕入れ資金を寝かせ、キャッシュフローを静かに圧迫します。
実際のところ、棚が空いていた日が先月何日あったか、慌てて追加発注した回数が何回あったかを数えている会社はほとんどありません。まずはこの1か月を振り返るだけでも、「うちも交互に起きている」と過不足のコストが見えてきます。
在庫の過不足が繰り返される理由は、担当者の能力ではなく構造にあります。「需要のブレを読む材料が揃っていない」「発注量の判断が特定の人の頭の中にある」「発注した後に予測と実績を振り返る仕組みがない」——この3つが重なっているからです。逆に言えば、販売実績・季節性・リードタイム(発注してから入荷するまでの日数)をデータにしてAIに読ませる設計にすれば、3つとも同時にほぐせます。
自分でやるなら:発注の「勘」をデータに置き換える
ステップ1:発注判断の材料を1か所に集める
需要予測の土台は、判断に使っているはずの情報をバラバラのままにしないことです。まずは次の4つを、1枚のGoogleスプレッドシートに集めます。
- 販売(出荷)実績:できれば日次。POS・レジ・販売管理システムからエクスポート
- 在庫数:現在の手元在庫
- リードタイム:発注してから入荷までの日数(仕入れ先ごと)
- 季節・イベント要因:セール、連休、天候、地域の催事など需要が動く要素。**季節の波を読ませたい場合は、最低でも前年の同じ時期のデータが要ります。**無ければ、まずは季節性抜き(直近の傾向だけ)で始めて構いません。前年分が揃っていない会社も多いので、当面は直近の傾向+催事の予定だけをAIに渡し、季節性は1年分たまってから足す進め方でも大丈夫です。
最初から全品目をやる必要はありません。売上や欠品リスクの大きい主要品目を10〜20品目だけ選び、そこから始めます。品目ごとの重要度はABC分析(売上構成比の高い順にA・B・Cへ振り分ける)で決めると迷いません。

ステップ2:ChatGPT・Claudeで需要を予測し、発注量の目安を出す
データが1か所に揃ったら、AIに予測させます。専用ツールを入れる前に、手元の実績でどこまで読めるかを試すのがおすすめです。
コピペで使えるプロンプト例(需要予測と推奨発注量):
以下はある商品の直近3か月の週次に加え、前年同期(できれば前年1年分)の
出荷実績・在庫数・リードタイムのデータです。
季節性やイベント要因も併記しています。
・翌週と翌月の需要(出荷数)の見込み
・欠品を避けつつ在庫を持ちすぎないための推奨発注量
・予測の前提と、注意すべきリスク(読みが外れやすい要因)
を、根拠とあわせて示してください。
[スプレッドシートのデータをここに貼り付け]
コピペで使えるプロンプト例(発注点と安全在庫の算出):
以下の商品について、発注点(在庫がこの数を下回ったら発注する基準)と
安全在庫(欠品を防ぐための余裕分)の目安を計算してください。
1日の平均出荷数、リードタイム、需要のばらつき(ブレの大きさ)を
ふまえた考え方も、初めての人にわかるように説明してください。
[品目別の出荷実績・リードタイムをここに貼り付け]
AIの予測はあくまで下書きです。「確かにこの時期は動く」と現場感覚に合う部分は採り、実態とずれる提案は外す。最終的に発注ボタンを押すのは担当者、という線引きは崩さないでください。
ステップ3:発注点を決めて、半自動で回す
まず、発注の基準になる「発注点」の考え方を押さえます。
発注点 = 1日あたりの平均出荷数 × リードタイム(日数)+ 安全在庫安全在庫は需要のブレの大きさとリードタイムで決まります。ここはプロンプト②でAIに出させて構いません。この式が頭に入っていれば、AIが返してきた数字も自分で検算でき、鵜呑みにせずに運用へ乗せられます。

予測が一度出て終わりでは、勘に戻ってしまいます。仕組みとして回すために、ステップ2で出した発注点をスプレッドシートに組み込みます。
- 品目ごとに発注点と安全在庫の数値をシートに記入する
- 在庫数が発注点を下回ったら色が変わるよう、条件付き書式を設定する。ただし条件付き書式は、シートを開いた人にだけ色で見せる仕組みで、放っておいて通知が飛ぶわけではありません。毎週◯曜の朝にこのシートを開く担当と時間を決めておくか、Googleスプレッドシートの通知ルールでメールに飛ばすところまで設定して、必ず誰かの目に入るようにします
- 週に1回、予測と実績のズレをAIにレビューさせ、外れた品目の発注点を見直す
この「予測 → 発注 → 実績で答え合わせ → 微調整」を回すほど、予測の精度は上がっていきます。大事なのは、発注そのものを全自動にするのではなく、AIには発注量の提案までを任せ、実行の判断は人が持つことです。
ツールを使って本格的に管理する:在庫・販売管理ツール
スプレッドシート運用が軌道に乗り、品目数や拠点が増えてきたら、専用ツールへの移行を検討します。ここで挙げるのはいずれも国産のクラウドサービスで、少人数の中小企業でも始めやすく、実績データが溜まると需要予測や発注提案につなげられます。
| ツール | 向いている状況 | 在庫・発注での特徴 |
|---|---|---|
| zaico(ZAICO) | 現物在庫の入出庫をまず正確に管理したい | スマホ・バーコードで少人数から在庫管理。AI分析ダッシュボード「zDASH」による発注点の最適化提案や、ABC分析での優先管理品目の特定もできる |
| ロジクラ(ロジクラ) | EC・小売で入出荷が多い | スマホ運用で入出荷・在庫を一元管理。過去データから発注数量・タイミングを提案する発注機能を持つ |
| スマレジ(スマレジ) | 店舗の販売実績から始めたい(飲食・小売) | POSレジと在庫が連動し販売実績が自動で蓄積。AI需要予測や自動発注は連携アプリ(サキミル等)で追加できる |
どれを選ぶかの目安:
- 品目が少なく、まずコストをかけずに試したい → Googleスプレッドシート+ChatGPT
- 現物在庫の入出庫をまず正確に管理したい → zaico
- EC・小売で入出荷が多い → ロジクラ
- 店舗の販売実績をベースに読みたい → スマレジ(POS連携)
目安として、品目50前後・1拠点までならスプレッドシート+ChatGPTで足ります。100品目を超える、または2拠点以上で在庫を持つあたりから、専用ツールを検討する価値が出てきます。
つまずきやすいポイントと回避策
「予測が当たらない」 → 全品目を一度に予測しようとすると精度が散ります。動きの大きいA品目に絞り、天候や催事といった外部要因を予測材料に足すと、当たりやすくなります。予測は「ピタリ当てる」ものではなく「発注の目安を作る」ものと捉え直すと運用が楽になります。
「そもそもデータが揃わない・欠品の記録がない」 → 過去の欠品は記録が残っていないことが多いですが、機会損失は在庫過多と同じくらい重要な情報です。今日から「欠品した日・品目」をシートに残し始めるだけでも、次の予測の材料になります。
「発注を全部自動化しようとして事故る」 → 最初から発注実行まで自動化すると、予測が外れたときに大量誤発注につながります。当面はAIの役割を「発注量の提案」までに留め、人が承認する一段を必ず残してください。
自走では越えにくい境界線
上記の方法で、「1品目〜数十品目の需要を読み、発注の目安を出す仕組み」は自力で作れます。一方、次の領域は設計が必要になります。
複数拠点・複数倉庫の在庫最適化 どの拠点にどれだけ在庫を配分するか、拠点間で融通するかは、拠点をまたいだデータ統合と配分ロジックの設計が要ります。単品の予測とは別の問題です。
生産計画・仕入れ計画との連動 製造業で「必要な材料を、必要な量、必要なタイミングで」揃える所要量計算(MRP)まで踏み込むと、需要予測は生産や調達の計画と一体で組む必要があります。
在庫方針そのものの設計 「欠品をどこまで許容するか」「仕入れ条件やキャッシュフローをどう織り込むか」は、ツールの問題ではなく経営としての在庫方針の問題です。予測はその方針を実行する道具にすぎません。
今週からできる、最初の一歩
今日試せることが1つあります。
一番よく欠品・過剰が起きる1品目を選び、過去3か月の週次の出荷数と在庫の推移をスプレッドシートに書き出す。たった1品目でも、数字を並べると「この時期に動く」「この発注は多すぎた」という波が見えてきます。そこまでできたら、そのデータをChatGPTに貼って「来週の推奨発注量を教えてください」と聞いてみてください。勘で決めていた発注が、実績に裏づけられた目安に変わります。
複数拠点の在庫配分や、生産・仕入れ計画との連動まで踏み込みたい段階になったら、その設計を一緒に整理することもできます。
本記事で紹介したzaico・ロジクラ・スマレジ・ChatGPT の機能・料金は変更になる場合があります。導入前に各社の公式サイトで最新情報をご確認ください。