AI業務整理室
「AIを『誰でも使える』に」の見出しと「AI活用の型」のラベルを配した記事ヒーロー画像。山吹色の地に生成りのカード、左下にAI業務整理室のロゴ

採用・教育を整理する / 2026年8月22日

AIを「研修して終わり」にしない|非IT社員でも使い続けられる仕組みの作り方

研修を増やす前に、順番を変えます。学ぶAIをいまの環境で1つに絞り、穴埋め式の型を1枚渡し、教材は「1操作=1〜2分の動画1本」に刻む。そして週15分の「AIタイム」で使う時間を業務の中に固定する——非IT社員に届く教材と、続く習慣の作り方を、撮り方のコツまで具体的に整理します。


覚えられないのは本人のせいではなく、教材と習慣が「非IT社員に届く形」になっていないから

AIを導入し、研修や勉強会もやってみた。それでも使うのは一部の若手だけで、年配の社員や非IT職種の人はログインすらしないまま——というのは、多くの中小企業で起きていることです。研修は一度きりで終わり、配ったマニュアルは分厚くて読まれず、教材づくりも「時間がない」で後回しになる。結果、「うちの社員はAIを覚えられない」という話に落ち着いてしまいます。

けれど、覚えられないのは本人の年齢や適性の問題ではありません。教える中身が、非IT社員に届く形になっていない——ここに理由があります。人は、使う場面がないものは覚えません。逆に、自分の毎日の仕事に一つでもハマり、詰まっても聞ける場があれば、説明されなくても使い続けます。

届かない理由を分解すると、だいたい次の3つが重なっています。「研修が一度きりで、そのあと使う機会がない」「教材が分厚く・専門用語だらけで、非IT社員には読めない」「使い続ける習慣も、詰まったとき聞ける相手もない」。裏を返せば、届く教材(短く・やさしく)と、続く習慣(使う場と聞ける相手)を用意すれば、研修を増やさなくても現場で使われ始めます。

なお、AIを現場に「定着させる」考え方そのもの——どの業務から広げるか、成功をどう横に広げるか——は、別記事AIを現場に定着させる|活用を広げる進め方で扱っています。この記事はその一歩手前、定着を支える「教材のつくり方」と「習慣の仕掛け」を、非IT社員に届く形でどう作るかに絞ります。

自分でやるなら:届く「教材」と、続く「習慣」を作る

研修の時間を増やす前に、順番を変えます。「機能を教えてから使わせる」のではなく、「自分の仕事で役に立つ体験を、短くやさしい教材で渡し、使う習慣で定着させる」。学ぶ入口を1つに絞り、業務の型を渡すところは軽く押さえ、この記事の主役である”教材と習慣”に時間をかけます。

まず、学ぶ入口を1つに絞る

いくつものツールを同時に教えると、非IT社員は身構えてしまいます。まずは全社で1つに絞り、「これだけ触ればいい」状態にします。選ぶ基準は好みや性能ではなく、いま社内で使っている環境に合わせること。すでに持っている環境から選べば、追加費用も設定の手間も最小です。

  • Google Workspace を使っている → Google Gemini:2025年1月から Business 各プラン(Business Standard は月1,600円など)に追加費用なしで標準搭載。Gmail・ドキュメント・Meet などでも使えるのは Business Standard 以上で、Starter は Gmail のみです。
  • Microsoft 365 を使っている → Microsoft 365 Copilot Chat:対象契約があれば追加費用なし・商用データ保護つきで使えます(社内文書と連携する上位版「Microsoft 365 Copilot Business」は月3,148円/年契約・税抜。2026年9月30日までは、対象プランを利用中の既存顧客向けに月2,698円のキャンペーン価格)。
  • どちらでもない/まず無料で → ChatGPT:無料版から。環境に縛られず、まずAIに触ってもらうのに向きます。

どのAIをどの業務に当てるか、現場にどう広げていくかは、前述のAIを現場に定着させる|活用を広げる進め方で扱っています。ここでは「学ぶ入口を1つにする」ことだけ押さえれば十分です。

Google WorkspaceならGemini・Microsoft 365ならCopilot Chat・どちらでもなければChatGPT、といまの環境で学ぶAIを1つに絞る選び方を示した図

白紙で渡さず、「埋めるだけの型」を1枚渡す

白紙のAIを渡して「自由に使ってみて」は、非IT社員に一番ハードルが高い頼み方です。代わりに、その人の業務でそのまま使える「型」——穴埋めするだけのお願い文(プロンプト)——を1枚渡します。たとえばこんな形です。

コピペで使える穴埋め式プロンプト例(お礼メールの下書き):

あなたは○○(例:営業事務)のアシスタントです。
次の内容で、取引先へのていねいなお礼メールの下書きを作ってください。

・相手の会社名/担当者名:
・お礼したい内容:
・次にお願いしたいこと:

文章はやわらかく、3〜4文でお願いします。

要約が多い仕事なら「次の文章を、要点3つ+やること1行で、やさしい言葉にまとめて」といった型も効きます。こうした型を職種ごとに3つほどそろえておくと、覚えることは「空欄を埋める」「文章を貼り付ける」だけになります。型を社内でどう増やし共有するかは、別途まとめます。

営業事務・総務・経理など業務別に用意した穴埋め式プロンプト(お礼メール/議事録の要約/表計算の相談)の例を並べた図

教材は「1操作=1〜2分の動画1本」に刻む

ここからがこの記事の本題です。分厚い操作マニュアルは、作るのも読むのも大変で、たいてい最後まで読まれません。代わりに、「1つの操作=1〜2分の短い動画1本」に刻みます。「お礼メールの下書きを作る」「議事録を要約する」——やりたいこと1つにつき動画1本、という粒度です。1本が短いほど、必要なときに必要な1本だけを見返せます。

撮影は、パソコン標準の画面録画機能で十分です(Windowsの「Snipping Tool」やMacの「画面収録」。どちらもOS標準・無料)。自分の画面を録画しながら操作して話すだけで、専用の機材も編集もいりません。撮るときのコツは、次のくらいシンプルに割り切ることです。

  • 映すもの:AIの画面だけ。余計なタブや通知は閉じ、操作するところにマウスを大きく動かす。
  • 最初の一言:「これは”お礼メールの下書き”を作る動画です」と、何ができるかを冒頭5秒で言い切る。
  • 長さ:1〜2分。超えそうなら操作を分け、動画を2本に割る(1本1操作を崩さない)。
  • 言葉:専門用語を避ける。「プロンプト」→「AIへのお願い文」、「生成」→「作ってもらう」のように、社内の誰もが使う言葉に置き換える。
  • 置き場所:SlackやTeams、共有フォルダなど”みんながふだん見る場所”に置く。専用サイトは作らない。「◯◯のやり方」で探せるよう、ファイル名は日本語で。

動画とセットで、手順を1行ずつ並べた「できたらチェック」のチェックシートを1枚添えます。動画で流れをつかみ、チェックシートで自分の手を動かす——この2枚1組が、非IT社員にはいちばん届きます。

1つの操作を1〜2分の短い動画1本にし、手順を1行ずつ並べたチェックシートと対にした教材の作り方を示した図

週15分の「AIタイム」で、使う習慣にする

教材を置いただけでは、忙しい現場では見られないまま終わります。覚えるかどうかは、結局は使った回数で決まる——だから、使う時間を業務の中に固定します。週に一度・15分、決まった曜日と時間に、みんなで同じ型を1つ試す「AIタイム」を設けます。朝礼のあとの15分でも構いません。進め方はこれだけです。

  • 今週の1本を決める:AIタイムの前に、その週に試す動画(型)を1つだけ選んでおく。あれもこれもやらない。
  • その場で全員が1回触る:見るだけで終わらせず、各自が自分の実際の仕事で一度使ってみる。
  • 詰まったら”AI係”に聞く:詳しい人を1人「AI係」に決めておく(片手間の軽い役割で十分)。その場で解決できると、苦手意識が残りません。
  • 良かった例を共有する:「この使い方が便利だった」をチャットや朝礼で一言。うまくいった具体例が回るほど、「自分もやってみよう」が広がります。

専門用語を使わない社内勉強会を月1回開くのも効きますが、まずはこの週15分を止めないことが、いちばんの近道です。

つまずきやすいポイントと回避策

完璧な教材を作ろうとして、いつまでも公開できない → 動画もチェックシートも、粗くていいので早く出すのが正解です。1操作1本に刻んでおけば、後から差し替えるのも簡単です。作り込みより、まず現場に届けることを優先してください。

動画を撮ったのに、見られないまま埋もれる → 教材は「置いて終わり」だと使われません。AIタイムでその週の1本をみんなで一緒に見て、実際に手を動かすところまでを1セットにしてください。1操作1本に刻んでおけば、あとから「◯◯のやり方」で必要な1本だけを探せます。

「何を入力していいか」が曖昧で、こわくて使わない → 顧客の個人情報や機密をどこまで入れてよいか分からないと、人は手が止まります。使ってよい情報・ダメな情報の線引きを先に1枚にして配ると、安心して触れます(この線引き自体は、AI利用のルールづくりとして別に整理する価値があります)。

自走では越えにくい境界線

上記のやり方で、「非IT社員が、自分の業務でAIを使い続けられる状態」までは自社で作れます。一方、次の領域は制度や専門的な設計が必要になります。

体系的なリスキリング制度の設計 個々の型や勉強会を超えて、職種・等級ごとに求めるスキルを定義し、評価や昇給と連動させる人材育成制度にまで踏み込むと、教育単体ではなく人事制度としての設計が要ります。

セキュリティと利用ルールの整備 何を入力してよいか、どのデータをAIに渡してはいけないか、違反時にどうするか——といった全社ルールは、現場の工夫ではなく規程として定める領域です。教材づくりと並行して、ここは別途固める必要があります。

業務プロセスそのものの再設計 「AIを使えるようにする」の先で、業務の流れ自体をAI前提に組み替える段階になると、一部の作業を教える話ではなく、業務設計の話になります。

今週からできる、最初の一歩

大きな研修を計画する前に、今週できる最小の一歩があります。

いちばんよくある業務を1つ選び、それに使えるAIを1つ・型(お願い文)を1つに絞って、2分の動画1本とA4一枚のチェックシートを作る。そして、週15分の「AIタイム」で、チームの全員に一度だけ試してもらう。

たった1つの業務でも、「自分の仕事で役に立った」という体験が生まれれば、そこから先は自然に広がっていきます。覚えてもらうことではなく、使う場面を一つ用意することから始めてみてください。

等級や評価と結びつけた育成制度づくりや、利用ルールの整備まで踏み込む段階になったら、その設計を一緒に整理することもできます。

本記事で紹介したChatGPT・Google Gemini・Microsoft 365 Copilotは代表的な一例です。機能・料金は変更される場合があります。導入前に各社の公式サイトで最新情報をご確認ください。