営業・提案を整理する / 2026年9月14日
提案書は"型"から書く|勝ちパターンを言葉にして、商談の数を増やす
提案書に時間がかかるのは担当者が遅いからではなく、勝ちパターンが個人の頭の中にあって毎回まっさらから始めているから。過去の受注案件から型を抽出するプロンプト、顧客情報を入れて下書きを作らせる指示、AIスライド生成ツールの選び分けまで、「ゼロから書く」を「下書きを直す」に変えるやり方を渡します。
提案書を毎回ゼロから作るから、商談の数を増やせない
引き合いはあるのに、提案書づくりが追いつかない——これは営業の現場でよく起きています。顧客ごとに一から資料を作ると、構成を考え、文章を書き、図表を整え、体裁を合わせて、1件あたり数時間から丸一日かかることも珍しくありません。作るのに時間がかかるほど、出せる提案の数は限られ、「もっと商談を増やしたいのに、資料作成がボトルネックになる」という状態に陥ります。
これは、担当者の作業が遅いからではありません。勝ちパターン(過去にうまくいった提案の型)が個人の頭の中にあって共有されず、毎回まっさらな状態から作り始めているという、仕組みの問題です。原因を分けると、だいたい次の3つが重なっています。提案の「型」が言葉になっていない、顧客情報を入れれば下書きが出てくる形になっていない、そして清書やデザインに時間を取られている——この3つです。
裏を返せば、勝ちパターンを型として決め、顧客情報を入れてAIに下書きを作らせれば、担当者の仕事は「ゼロから書く」から「AIの下書きを直して仕上げる」に変わります。同じ時間でも出せる提案の数が増え、しかもこれは大がかりなシステムを入れる前に、手元の道具で始められます。
自分でやるなら:提案書を「型+AIドラフト」で作る
順番はシンプルです。勝ちパターンを型にし、顧客情報を入れてAIに下書きを作らせ、スライドに整えて仕上げる。以下がその中身です。
ステップ1:勝ちパターンを「型」にする
まず、過去に受注できた提案書を数本用意し、共通する構成を洗い出します。多くの提案は「相手の課題 → その原因 → 提案内容 → 導入で得られる効果 → 料金 → 実績・事例」のような流れでできています。ここをChatGPTに手伝ってもらうと早いです。
コピペで使えるプロンプト例(過去提案から型をつくる):
以下は、過去に受注できた提案書のテキストです(複数本)。
共通している構成(見出しの流れ)を抽出し、
「どんな提案でも使える型」として、各セクションに
・そこで何を書くか(1行の説明)
を添えた形でまとめてください。
[過去の提案書のテキストをここに貼り付け]
出てきた型を、1枚のテンプレートとして固定します。以降の提案は、この型の空欄を埋めていく作業になります。

ステップ2:顧客情報を入れて、AIに下書きを作らせる
型ができたら、案件ごとに顧客の情報を入れて、下書きを作らせます。ゼロから書くのではなく、型の各セクションを埋めてもらうイメージです。
コピペで使えるプロンプト例(顧客情報→提案ドラフト):
あなたは法人営業の提案書作成アシスタントです。
以下の「提案書の型」に沿って、この顧客向けの提案書ドラフトを作成してください。
・顧客の業種/規模:
・相手が抱えている課題:
・こちらの提案(商品・サービス):
・伝えたい強み:
各セクションは簡潔に。事実として確認できないこと(実績の数値など)は
[要確認] と明記し、勝手に作らないでください。
[ステップ1で作った型をここに貼り付け]
最後の「事実でないことは作らない」という一文が重要です。AIは、それらしい導入実績や数字を”創作”してしまうことがあります。数字や事例は必ず自分で入れる、と決めておくと事故を防げます。

ステップ3:スライドに整えて、人が仕上げる
文章のドラフトができたら、提案資料の形(スライド)に整えます。ここは、テキストからスライドを自動生成するツールを使うと一気に短縮できます。生成されたスライドはあくまで”たたき台”なので、最後に人が通しで確認し、数字・固有名詞・言い回しを直して仕上げます。
仕上げのときに見るのは、次の4点に絞ると速いです。実績の数字や顧客名などの事実が正しいか、相手の課題に対して提案がずれていないか、1枚に言いたいことが1つに収まっているか、そして最後のページに「次にやること(次回打ち合わせや見積提示など)」が書かれているか。ここだけ人が責任を持って確認すれば、あとはAIの下書きに任せて構いません。
この「AIが下書き、人が仕上げ」の分担にすると、これまで資料作成に取られていた時間の多くが、清書と確認の時間に置き換わります。空いた時間を、実際の商談やヒアリングに回せるようになり、同じ人数でも出せる提案の数が増えていきます。

ツールで本格的に運用する:AIスライド生成ツール
清書のステップを速くするなら、テキストから提案資料を自動生成するツールが役立ちます。ここで挙げるのは中小企業でも導入しやすいものです。
| ツール | 向いている状況 | 提案資料づくりでの特徴 |
|---|---|---|
| Gamma | まず無料で、素早くたたき台を出したい | プロンプトやアウトラインを入れるとスライドを自動生成。日本語に対応し、無料プランから試せる(登録時に生成用のクレジットが付与される方式で、毎月付与ではない)。有料はPlus 月1,440円/Pro 月2,500円(いずれも年額払い) |
| イルシル(株式会社イルシル) | 国産・日本語の体裁を重視したい | 国産のスライド生成AI。3,000種類以上の日本語特化テンプレートを備え、文章を貼り付けるとスライド化。無料プランで作成を試せる(PDF・PPTX・PNGでの書き出しは有料プランから)。パーソナルプランは月1,430円〜1,848円(税込・契約期間で変動)、パーソナルプラスは月5,500円(税込・年間契約) |
| Canva(Canva Pty Ltd) | デザインをしっかり整えたい | デザインテンプレートが豊富で、AI機能(マジックデザイン等)で資料のたたき台を作れる。無料プランがあり日本語にも対応 |
どれを選ぶかの目安:
- まず文章の下書きだけ速くしたい → ChatGPT/Gemini(型に沿ったドラフト作成)
- とにかく速くスライドのたたき台を出したい → Gamma
- 国産で日本語の資料体裁を重視 → イルシル
- デザインまで整えたい → Canva
いずれも「ゼロから作る」を「たたき台を直す」に変えるための道具です。デザインの作り込みより、まず型と下書きで提案の数を増やすことを優先してください。
つまずきやすいポイントと回避策
AIが作った実績・数字をそのまま載せてしまう → いちばん危険な失敗です。AIはもっともらしい導入事例や数値を創作することがあります。数字・事例・顧客名は必ず自分で入れ、AIの出力は「文章の骨組み」として使ってください。
型が汎用的すぎて、相手に刺さらない → 型は出発点であって、そのまま出すものではありません。相手の課題に合わせて、いちばん伝えたい一点をセクションの順番や見出しで強調する——ここは人の判断が要る部分です。
デザインに凝りすぎて、逆に時間がかかる → ツールを使うと、つい見た目を整えたくなります。提案の中身が伝われば十分なので、装飾は最小限に。空いた時間は商談の準備に使うのが本来の目的です。
自走では越えにくい境界線
上記のやり方で、「型に沿って提案書のドラフトを作り、スライドに整える」ところまでは自力で作れます。一方、次の領域は専門的な設計や作り込みが必要になります。
複雑な見積もり・価格設計
提案とセットになる見積もりで、オプションの組み合わせや条件によって価格が変わるような計算は、提案書の自動生成とは別の仕組み(見積もりのルール設計)が必要です。
機密性の高い提案・カスタム性の高い案件
顧客の機密情報を多く含む提案や、毎回まったく異なる大型案件は、そのままAIに入れてよいかの判断も含め、型に落としにくい領域です。ここは人が主導する前提になります。
ブランドとしてのデザインの作り込み
会社の世界観を表現する作り込んだ資料は、テンプレート生成の先にあるデザインの仕事です。日常の提案はAIで速く、勝負どころの資料は専門的に、と使い分けるのが現実的です。
今週からできる、最初の一歩
大きなツール導入を考える前に、今週できる最小の一歩があります。
直近で受注できた提案書を1本開き、その構成を「課題→原因→提案→効果→料金→事例」のように分解して、型として書き出してみる。そして次の提案で、その型と顧客情報をChatGPTに渡し、下書きを作らせてみる。
たった1本を型にするだけで、次からの提案が「ゼロから」ではなく「下書きを直す」に変わります。まずは自社の勝ちパターンを1つ、言葉にするところから始めてみてください。
複雑な見積もりとの連動や、機密性の高い大型案件の提案設計まで踏み込む段階になったら、どこから手をつけるかの優先順位づけからご相談ください。
本記事で紹介したGamma・イルシル・Canvaは代表的な一例です。機能・料金は変更される場合があります。導入前に各社の公式サイトで最新情報をご確認ください。