営業・提案を整理する / 2026年9月25日
「着地が読めない」をやめる|AIで営業パイプラインを可視化する3ステップ
着地が読めないのは営業が怠けているからではなく、案件情報を「入力する場所」と「見る仕組み」が分かれているからです。大がかりなシステム刷新をしなくても、5項目に絞った棚卸しから始められます。無料枠のあるツールも含めた3ステップで整理します。
案件がExcelや個人メモに散らばり、今月の着地が誰にも見えない
「今月、着地はいくらになりそう?」——経営会議でこう聞かれて、営業マネージャーが各担当者に確認して回る。案件の進捗も確度も金額も、担当者ごとのExcelや手帳、個人のメモに散らばっていて、誰も全体像を持っていない。中小企業の営業現場では珍しくない光景です。
この状態だと、経営者は「今月はいけそうです」という感覚的な報告に頼るしかなく、着地が読めないまま月末を迎えます。案件が想定より進んでいないことに気づくのも遅れ、手を打てるタイミングを逃します。担当者が休んだり退職したりすると、その人が抱えていた案件の状況ごと見えなくなることもあります。
原因は、営業担当が怠けているからではありません。案件情報を「入力する場所」と「見る仕組み」が分かれていて、入力しても誰にも見られず、見ようとしても最新の状態がどこにあるか分からない——この構造の問題です。
裏を返せば、案件情報をひとつの場所に集め、AIに進捗と確度を分析させれば、着地予測は自動で見えるようになります。大がかりなシステム刷新をしなくても、いま使っているツールの機能や、比較的安価なSFA(営業支援ツール)で始められます。
自分でやるなら:パイプラインを「見える化」する3ステップ

ステップ1:いまバラバラな案件情報を棚卸しする
まず、案件情報が現在どこに散らばっているかを把握します。担当者ごとのExcel、個人のメモ、口頭での報告——これらを「案件名・金額・確度(受注しそうな度合い)・進捗状況・次のアクション」の5項目に統一して書き出します。
完璧な精度は不要です。まずは今動いている案件を1つの表に集めるだけで、バラバラだった情報が初めて比較できる状態になります。
コピペで使えるプロンプト例(バラバラな案件メモの統一フォーマット化):
以下は、営業担当者ごとにバラバラな形式で書かれた案件メモです。
次の5項目に統一した表に整理してください。
・案件名
・金額(見込み)
・確度(高・中・低)
・進捗状況(今どの段階か)
・次のアクション(誰が・いつ・何をするか)
情報が足りない項目は「未記入」としてください。
[案件メモをここに貼り付け]
ステップ2:使っているツールに応じて、パイプラインを一元化する
案件情報を統一できたら、それを常に最新の状態で見られる場所に置きます。ここは、いま使っているツールや会社の規模によって選び方が変わります。

まず無料で試したいなら:HubSpot Sales Hub
無料プランでも商談パイプラインを登録・管理でき、2ユーザーまでは費用がかかりません。AIによる受注予測・売上フォーキャスト機能は上位のProfessionalプランから使え、月額はおおよそ1万円台/ユーザーです(2026年8月時点、公式サイトより)。まず無料で案件を一元管理する運用に慣れてから、予測機能が必要になった段階で上位プランを検討する進め方が現実的です。
小規模チームで、AI予測もなるべく安く使いたいなら:Zoho CRM
案件情報の管理に加え、AIアシスタント「Zia」による受注確度の予測機能があります。Zia予測が使えるのはEnterpriseプランからで、月額はおおよそ5,660円/ユーザーです(2026年8月時点、公式サイトより)。人数が少なくても契約しやすい料金設計なので、AI予測を早めに使いたい少人数の会社に向いています。
営業チームが10名以上で、日本語サポートを重視するなら:Mazrica Sales
株式会社マツリカが提供する国産のSFAです(旧称「Senses」、2025年に改称)。AIによる受注確度・契約金額・契約時期の予測に強く、完全に日本語で使えます。ただし最低契約が10IDからで、AI予測に対応するGrowthプラン以上は12,500円/ID・10IDで月額125,000円からとなります(2026年8月時点、公式サイトより)。少人数のチームには割高ですが、営業チームがある程度の人数になり、日本語のサポート体制を重視するならしっかり検討する価値があります。
(各ツールの機能・料金は変更になる場合があります。最新情報は各社の公式サイトでご確認ください)
ステップ3:AIの予測を「経営会議で見る数字」にする
ツールにデータが集まってきたら、AIが出す予測(今月の受注予測額、確度別の内訳など)を経営会議で使う数字として定例化します。
ここで大事なのは、AIの予測を鵜呑みにせず、大型案件や確度が急に変わった案件だけは営業担当に直接確認することです。AIは「過去のパターンからありそうな数字」を出しているだけなので、これまでにないタイプの案件や特殊な事情がある案件は、人の目での確認が欠かせません。
つまずきやすいポイントと回避策
入力が面倒で、誰も更新しなくなる → 入力項目を最初から5つに絞ったのはこのためです。項目を増やしすぎると必ず形骸化するので、まずは最小限で運用を軌道に乗せてください。
ツールを入れただけで、経営会議で見る習慣にならない → 「毎週この時間にダッシュボードを開く」と決めて、会議の冒頭で必ず数字を確認する運用にすると定着します。
AIの予測を全面的に信じてしまう → 予測はあくまで過去のパターンに基づく参考値です。金額が大きい案件や動きが特殊な案件は、必ず担当者に直接状況を確認してください。
自走では越えにくい境界線
上記の方法で、「案件情報を一元化し、AIで着地予測を見える化する」ところまでは自社で作れます。一方、次の領域は専門的な設計が必要になります。
大規模で複雑な営業組織への導入
Salesforceのような多機能プラットフォームは、AI予測機能を使うにはUnlimited相当の上位プランが必要になるなど料金体系が複雑で、専任の管理者がいない会社では設定・運用の負荷が大きくなります。営業組織が大きく、複数部門との連携が必要な段階になってから検討する対象です。
既存の基幹システムとの連携
会計・受発注システムなどと案件データを連携させ、受注確度に応じた資金繰り予測まで広げるのは、個別の設計が必要な領域です。
予測モデルの精度チューニング
業界特有の商習慣や季節性を織り込んだ予測にしたい場合、標準機能だけでは足りず、データ分析の専門的な調整が必要になります。
今週からできる、最初の一歩
今日試せることが1つあります。
いま動いている案件を5件だけ選び、「案件名・金額・確度・進捗状況・次のアクション」の5項目で一覧に書き出してみてください。Excelでも構いません。これだけで、担当者に聞かなくても案件の全体像が見える状態になります。
その一覧を、来週の営業会議やミーティングで実際に開いて話してみる。そこから「もっと自動で見えるようにしたい」と思ったら、上のステップ2のツール選びに進めばよいのです。
本記事で紹介したツールの機能・料金は2026年8月時点のものです。各社の仕様変更により変わる場合があります。導入前に各社の公式サイトで最新情報をご確認ください。